狼たちはいなくなった/小説家になろう感想

 前の記事と同じく、これもGW中に検索ワード「狩人」で引っかけて読みました。これはタイトルがカッコいいなーということで惹かれましたね。

 以降の内容はネタバレを含んでいます。ご覧のかたはご了承ください。

狼たちはいなくなった/yuma さん

――幼い日、少女は父と老狩人に連れられた森で、狼の遠吠えに心奪われた。
 数年後、互いに傷を負いつつ王宮で対面する二人の男女。
「婚約は、破棄させてもらおうと思う」と言ったのは、クラウディオ王子。感謝を持って受け止めたのは婚約者のリリーローズ。彼女は、邸に帰ると、ベッドの中でこれまでのとりとめのない出来事を思い返す。
孤児院で出会った孤独な少女、母との確執、婚約者との関係。そして狼のこと。
リリーローズは狼になる。

小説家になろう あらすじより

 読んでよかった~! すごいよかった。最終話が、ほんとよかった、すごかった。こんないろいろ盛りだくさんで、感情をすごく揺さぶってきて、50000字。すごいなあ。

 あらすじは狙っているのかどうなのか、なろうで流行っている「婚約破棄」という言葉がチョイスされている。でも、いわゆるざまあ展開はまったくないし、二人の間に意思疎通の不備による勘違いもない。本当に、もうそれしかないよねっていう状況で、順当に婚約破棄がされている。登場人物の言動が大人というか、相手のために身を引く感じになっている。なんだろうな。愛とか恋とか、そういう紋切り型の言葉は似合わないかな。かけがえのないもの、尊いものとしてお互いを扱っているんだ。

 最終話の、それまでの世俗のしがらみを振り切って、リリーローズが狼になるシーンが、すごく良かったんですよ。狼になり切れなかったところも含めて。狼じゃないんだ、おまえは人間なんだよって、自分で気づいてしまう。狼になれない、彼らと生きていけないことが、胸がつぶれそうなほど悲しい。権謀術数にまみれた世界で暮らしていくしかできない。だけど、人間の世界も悲しいことばかりではないって、リリーローズにはちゃんと分かっているんだと思う。オオカミ女になって森の中に消えることもできたけど、戻ってきたのは、それを選んだからだと思いたい。

 ところでラストシーンの最後のところなんですけど、気になって気になって、小説家になろうの感想欄まで見てきたんですけど、誰もそこに言及していなかったので、ということはつまりいちいち言うのはヤボってもんだと思うんですけど、でも書きますけど、……えっと最初に読んだとき、リリーローズはそのまま目が覚めなかったのかなって思ったんですよ。状況的にも、とても衰弱していただろうし、精神的に強くても、そこは貴族の婦女子なわけですし。でも読み返すとき、それってちょっと(特に王子にとって)救いがなさすぎるかな、どうなのかな……という目で見てみると、しばらくしてオハヨーって目が覚めそうにも読めたんですよ。どっちなのかな……どっちでもありそうな感じで、それもまたいいな。不思議な読み味。

 そういえば物語の構成も面白かった。最初に婚約破棄のシーンがあって(なろうではお馴染みかもしれない)、で、そこに至るまでの原因があって、最後に婚約破棄のあとの話(狼になる話)でエンド。こうやって要素だけ抜き出すと本当に婚約破棄テンプレみたいな感じになるけど、中身はテンプレ真っ向対立という感じだw

  • 婚約破棄をされる → 陥れられるとか策略とか一切無い
  • 可愛がっていた子狼が逃げてしまう → 保護とかはせず討伐令を出す
  • 少女に刺される → 当て馬女の逆恨みアタックではない

 硬派だ……。


 ちなみに2019年時点でも婚約破棄って流行ってるのかな、とランキングを見てきたら、異世界恋愛の週間TOP25に9作品がランクインしていたのでまだまだ猛威を振るっていると思われる。


 それから、全然小説本文とは関係ないんだけど、同作者さんの「カクヨムで一か月活動してみたら」がものすごく面白かったので、ここに記しておきます。一夜明けたら100作品越え……すばらしいことだが、おそろしいことでもある……