死者の石/個人サイト感想

 見つけた経緯について。2020/06にツイッターで異世界風土記さん(@fudokift)が流していた紹介文が面白そうだったのでつられて読んじゃいました。紹介文のなかで特に惹かれたのは、女の子が主人公っていうところと(好きなんです…)、感性が人間離れした人ならぬ者が出演しているという点でした(好きなんです…ウッウッ…)。

 以下ネタバレを含んでいます。未読のかたはご注意ください。

死者の石/於來 見沙都 さん

 子供だったころ、死んだ兄を探して村の霊山に登ったことがある。

幻想は一夜だけ 小説目次 あらすじより

 世界の片隅の、山深き地で暮らす少女アーナンは、死んだ兄を生き返らせるために禁足地へと足を踏み入れた。禁じられた地の境に建つ石柱を越えようとしたそのとき、奇妙な男に声をかけられる。霊山の魔物を自称する男に訊かれるがままに身の上を打ち明けるアーナンだったが……っという感じではじまる物語です。ちょうどいい長さ(8000字ちょっと)の短編です。別作品の番外編とのことですが、登場人物は独立しておりそのまま読めちゃいます。

 冒頭、大人になったアーナンが過去を振り返る形で物語は進行していきます。基本は少女時代のアーナンの子どもらしい目線で語られるのですが、ときどき大人アーナンの考察というか、当時の裏事情に対する推察が独白で補強されており、彼女が暮らしていた〈村〉は、他とは少し違う在りようだったのかな~というのがにおわされます。だいたい、神官さまの脅し方がめちゃくちゃエゲツナイよ!

 そしてセキヤ登場。人間が異界との境界を跨ごうとしたときに声をかけてくるといえば、そりゃあ人ならざる者なんだろうな~っと思うのですが、この男がなかなか物腰柔らかな感じのいいヤツで、や~んハートフルストーリーじゃ~んとか思っていたらそんなことはありませんでした。セキヤが本性を出したときの姿かたちの描写が、すごくイイ感じに気持ち悪い…「ぬめった」「ねっとり」「ナメクジのような舌」てモロ悪いやつを形容する表現で…大好き!(矛盾)

 セキヤはそういうヤツなんですけど、言っていることは正論で、無意識下で息子を偏愛していた両親、いらないものとされ続けてきた少女の孤独(「死者の数が足りないと言われたら、自分が魔界に残ればよい」なんて、たとえ罪の意識があったって普通はそうはならない)、それらをひっくるめて暴いて…なんて、もうめっちゃイイヤツなのでは? 露悪趣味が強烈だけど…。

 最後の終わりかたが、もの悲しくもあり、希望があるようでもあり、不思議な感じがする。兄の亡骸を「物のようになってしまった」と感じながらも、そこには確かな絆の欠片がある。優しいなあ……。


 コピーライトを見ると2004年の作品でした。こういう出会いがあるから、ひとさまのブックマークを漁ることはやめられない……。