剣の歌/小説家になろう感想

 見つけた経緯について。たしか2018年頃に、「異形」というキーワードで検索をかけて、同作者さんの「犬の一生」が面白くて、よ~し作者読みしてみよ~っと……みたいな経過をたどった気がします。なぜ異形で検索していたかは謎です……。

 以下ネタバレを含んでいます。ご覧のかたはご了承ください。

剣の歌/ブリキの さん作

 剣戟の最中において、剣は剣であるがまた盾でもある。
 北方の大陸ノルド。雪降る夜にとある宿に宿泊していた隻眼の老人は、宿にいた銀髪の美女、吟遊詩人シュヴェルトライテの歌を聞く。彼女の歌とは、女子高生の小町恋歌と彼女が犯した罪に関するものであった。

小説家になろう あらすじより

 あてどない旅の途中に立ち寄った安宿にて、老戦士は、怪しくも美しい吟遊詩人の女と火を囲み語り合うことになった。老戦士の求めに応じて吟遊詩人の女が唇に乗せた歌は、異世界の少年と少女の罪の話だった。遠い世界の罪の歌が、雪に篭められた宿に奏でられる。恐ろしい罪語りがはじまる…… っという雰囲気の物語です。

 まず最初に、こういう物語を読ませてくれてありがとうございますとブリキのさんにお礼を言いたいです。この罪と葛藤と贖罪の旅が、ものすごく刺さりました。この作品を見つけることができて、読めて、よかったです。

 物語の組み立てというか、構成というか、作りが一風変わっていますね。あらすじの時点で「え? 北欧神話なのになんで日本人が?」という感じなのですが、この導入が面白い。ちょっとした工夫があって、「たとえばこういう世界のこういう話があったとして」という体で女の口から語られるんですね。ちょうど翻訳機が挟まったみたいになって、たぶん老戦士にはそれほど違和感のないストーリーで伝わっているんだろうな、というのがわかります。たとえば現代日本パートで三神というお調子者が語尾ににゃーにゃー付けてふざけるシーンがあるんですけど、その様子は読み手には伝わっているかもしれないけど、老戦士には絶対伝わってないでしょっていうのが、本文にはまったく補足とか書いてないけど伝わってくる(とか言って完全再現だったらどうしよう……。にゃんにゃん声マネしたの?笑)。

 この物語は2つの軸があって、それが「老戦士と吟遊詩人の物語」と、「吟遊詩人が語る現代日本のある出来事」。場面転換が進んでいくごとに重苦しい雰囲気がましていく感じがたまらない。

 雪の宿①、不穏な空気で物語が幕を開ける。舞台が飛んで事件前の仲楯、ほんの気の迷いみたいな、悪気のない行動が、人生を壊す決定的な事故につながってしまう。雪の宿②、未熟な少年少女だと老戦士は考えるが、どちらが悪いのかという単純な話をしたいのではないと吟遊詩人が釘を差す。現代に戻って、殺意の小町。一瞬だけ挟まる内心を見せない仲楯。文科省襲来で追い詰められる小町。雪の宿③、ここまできて老戦士にも吟遊詩人の言わんとすることが見えてくる。そして悲劇の結末……結末までは語られないが、晴海は絶対に負けないことがわかってしまう。正義の剣は負けない。雪の宿④、老戦士の終幕。

 ……っかあああ~~~! これ! これめちゃくちゃカッコいいじゃないですか! もうグッときた場面がたくさんありすぎて、特に終盤の畳みかけるような悲劇と覚悟が、恐ろしくもあり、美しくもあり……。この完成度、憎いw

 物語の場面が2軸で進んでいったように、なんとはなしにテーマも2軸あったのかなと思いました。罪は罪であり許されることは決してない。たとえ罪人にどんなに勘案するべき事情があったとしても、「罪」として顕れてしまったものは、償えない。不可逆なものを償うことなどできるわけがない。という軸と、なぜ仲楯少年が小町をかばうのかという、情の物語。それにしたって同情はするけど絶対に剣の手はゆるめない晴海が強すぎる……。真実の剣は負けない。正しくて残酷な切り口で、二人の嘘を切り裂くだろうとわかってしまう。仲楯少年は万が一にも勝てない。でも、勝ち目のない戦いに挑んでしまう。理屈ではないところで自分を賭けてしまっているから。って晴海が気づくところが、最高にエモーショナルでした。エモいってこういう感覚なんだ……。

 話の流ればっかりに触れちゃってけど、ちょいちょい挟まる面白ウィットな会話も好きです。三神と茜パイセンが良いキャラしているw この日常パートが楽しいからこそ、日常が反転してしまうことの恐ろしさがあとを引く。輝かしい日々ほど、暗く長い影を作るのかな。普通の、すこし不器用な人たちを、ほんの些細な出来事が変えてしまう。バッドエンドまっしぐら。絶望と後悔しか残らない。だけど、最後にもう一度チャンスが訪れる……なんて優しい物語なんだろう。いや、決して優しいわけではなく、悪辣で残忍な人間の性を見せているんだけど、それでも根底に優しさがあるような気がしてならない。

 剣の歌、の「剣」は無邪気な過ちなのかな。人物でいうと小町。剣と盾の歌、の「盾」は攻撃性のある保身だろうか。これも小町のことかな。最後の剣と剣の歌、の「剣」は守るためにふるう剣、と読めたので、晴海と仲楯少年だったのかな。っとか考えるのもいちいち楽しい経験でした。


 あ~~~~かっこいい。かっこよすぎる……。